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東京地方裁判所 昭和57年(特わ)2296号 判決

裁判所書記官

安井博

(被告人の表示)

本店所在地

東京都渋谷区千駄ケ谷二丁目二番六号

ダイワスポーツ株式会社

(右代表者代表取締役吉田省三)

本籍

東京都千代田区平河町一丁目一一番地四

住居

同町一丁目八番八号

桔梗ライオンズマンション一〇〇三号

会社役員

松村健太郎

大正一二年四月一五日生

本籍

東京都豊島区池袋一丁目六一一番地

住居

同都調布市染地三丁目一番地七一

多摩川住宅ト五の五〇一号

会社役員

高橋孝一

昭和五年六月三〇日生

主文

一  被告人ダイワスポーツ株式会社を罰金二三〇〇万円に、被告人松村健太郎、同高橋孝一をそれぞれ懲役一年に処する。

一  被告人松村健太郎、同高橋孝一に対し、いずれもこの裁判確定の日から各三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人ダイワスポーツ株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都渋谷区千駄ケ谷二丁目二番六号に本店を置き、運動用雑貨服装及び装身具の輸出入製造販売等を目的とする資本金三六〇〇万円の株式会社であり、被告人松村健太郎は被告会社の取締役監理部長として、同高橋孝一は取締役総務部長としていずれも同会社の業務を掌理していたものであるが、被告人松村、同高橋は共謀の上、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、仕入、広告宣伝費の架空計上等の方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五三年五月一日から同五四年四月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三億八六四九万八五二一円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年六月二九日、東京都渋谷区宇田川町一番三号所在の所轄渋谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三億一六〇五万四〇五三円でこれに対する法人税額が一億二三六二万五七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五七年押第一二八八号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一億四八九九万〇六〇〇円と右申告税額との差額二五三六万四九〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ、

第二  昭和五五年五月一日から同五六年四月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九億四七八九万四〇四五円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年六月三〇日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七億四四三七万二六四二円でこれに対する法人税額が三億一〇二一万一三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三億九一七〇万五三〇〇円と右申告税額との差額八一四九万四〇〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全般につき

一  被告人松村健太郎、同高橋孝一の当公判廷における各供述

一  被告会社代表者吉田省三の当公判廷における供述

一  被告人松村健太郎、同高橋孝一の検察官に対する各供述調書

一  被告人松村健太郎(六通)、同高橋孝一(六通)の収税官吏に対する各質問てん末書

一  吉田省三、高橋春江、中島重雄、田中秀雄の検察官に対する各供述調書

一  吉田省三(四通)、高橋春江、中島重雄(二通)、村岡高雄(二通)、吉元福吉(二通)、杉内丈二、松本嘉幸(三通)、田村正己、古谷幸(三通)、根岸ゆかり(二通)、磯貝邦夫、酒井敬、臼井哲の収税官吏に対する各質問てん末書

一  東京法務局渋谷出張所登記官作成の登記簿謄本

判示第一、第二の事実ことに過少申告の事実及び別紙(一)、(二)修正損益計算書の公表金額につき

一  押収してある法人税確定申告書二袋(昭和五七年押第一二八八号の1、2)

判示第一、第二の事実ことに別紙(一)、(二)修正損益計算書中の各当期増減金額欄記載の内容につき

一  収税官吏作成の売上調査書(別紙(一)、(二)修正損益計算書の勘定科目中各〈1〉。以下調査書はいずれも収税官吏が作成したものである。)

一  期首商品棚卸高調査書(右同(一)、(二)の各〈3〉)

一  昭和五三年四月期末商品棚卸高調査書(右同(一)の〈3〉)

一  商品期末棚卸高調査書(右同(一)、(二)の各〈11〉)

一  当期純仕入高調査書(右同(一)、(二)の各〈4〉)

一  支払手数料調査書(右同(一)、(二)の各〈12〉、〈75〉)

一  広告宣伝費調査書(右同(一)、(二)の各〈17〉)

一  旅費交通費調査書(右同(二)の各〈18〉)

一  交際接待費調査書(右同(二)の〈19〉)

一  給料調査書及び過大役員報酬調査書(右同(二)の〈21〉、〈74〉)

一  寄付金調査書(右同(一)、(二)の各〈39〉、〈70〉)

一  雑貨調査書(右同(一)、(二)の各〈40〉)

一  受取利息調査書(右同(一)、(二)の各〈41〉)

一  海外市場開拓準備金調査書(右同(一)の〈51〉、〈56〉、(二)の〈53〉、〈58〉)

一  価格変動準備金調査書(右同(一)の〈57〉、(二)の〈52〉、〈57〉、〈68〉)

一  価格変動準備金積立超過額調査書(右同(一)の〈69〉)

一  価格変動準備金認容額調査書(右同(二)の〈68〉)

一  事業税認定損調査書(右同(一)の〈65〉)

一  交際費損金不算入額調査書(右同(二)の〈66〉)

一  渋谷税務署長作成の証明書(右同(一)の〈51〉、〈56〉、〈57〉、〈69〉、(二)の〈52〉、〈53〉、〈57〉、〈58〉、〈68〉)

判示第一、第二の事実ことに別紙(三)税額計算書の課税留保税額につき

一  課税留保金額及び税額計算調査書

(法令の適用)

一  罰条

(一)  被告会社

第一の事実につき、昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条、第二の事実につき、改正後の法人税法一六四条一項、一五九条

(二)  被告人松村、同高橋

第一の事実につき、行為時において右改正前の法人税法一五九条、裁判時において改正後の法人税一五九条、刑法六〇条(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による。)、第二の事実につき、改正後の法人税法一五九条、刑法六〇条

二  刑種の選択

被告人松村、同高橋につき、いずれも懲役刑選択

三  併合罪の処理

(一)  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項

(二)  被告人松村、同高橋

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(重い第二の罪の刑に法定の加重)

四  刑の執行猶予

被告人松村、同高橋につき、いずれも刑法二五条一項

(量刑の理由)

被告会社は、昭和三七年四月二三日、吉田省三が個人で営んでいたスキー、登山用品等の製造販売業を法人化して設立した会社であって、資本金の半分以上を代表取締役に就任した右吉田省三及びその家族が出資している同族会社であり、被告人松村及び同高橋(以下「被告人両名」という。)は被告会社設立の際発起人として参加し、被告人松村は、設立当初非常勤の監査役に就任したが、昭和四五年から取締役兼監理部長となり主に渉外部門の責任者として業務に従事し、被告人高橋は取締役に就任した後、総務部長を兼任し総務及び経理部門の統括責任者として業務を担当していたものであるが、本件は被告人両名が被告会社の業務に関し売上及び棚卸の除外をしたり、仕入、広告宣伝費等の架空計上をするなどして、被告会社における昭和五四年四月期及び同五六年四月期の二事業年度の正規の法人税額五億四〇六九万円余に対し、合計四億三三八三万円余の法人税しか申告せず、総額一億六八五万円余の法人税を免れたというものであって、被告会社のほ脱税額が高額であるうえ、被告人両名の犯行の態様をみても、商品部長を通じて担当者に指示し売上や棚卸を除外させたり、被告人松村が親しく交際していた中島重雄に依頼して、同人の経営する会社等を仕入先とする架空の請求書、領収書等を作成してもらい、これを被告会社の経理担当者に提出して公表計上させ、他方代表取締役である吉田に対しては右の経理操作を秘していたものであって、計画的かつ悪質な犯行というべきであり、右のようにして蓄積した簿外資金を仮名預金や後述する被告会社の同和対策の費用に使用したほか、被告人らの役員賞与や個人的用途にも充てていること、また、被告人両名は、昭和四九年一〇月被告会社が優良申告法人に選定され、優良申告法人については税務調査は五年に一回くらいの割合で、しかも形式的な調査しか実施されないことを知るや、そのころから被告人両名相談のうえ、会社の営業上自由に利用できる裏資金を捻出する目的で、吉田に内密裡にかなりの額に上る脱税を始めたこと等を併せ考えると、被告会社及び被告人らの責任には軽視できないものがある。

しかしながら、被告会社は、前記のとおりもともと吉田省三が設立以来これを統括する会社であるところ、右吉田においてかねてから適正な納税申告を方針としていたこともあって、被告会社は昭和四九年に優良申告法人に指定されていたのである。そして本件は、もっぱら取締役である被告人両名の立案・実行にかかるものであって、右吉田はこの事実を知らなかったのであり、被告会社及び右吉田において監督上の責任は免れないとしても、中小の同族会社においてしばしば見られるような社長がみずから脱税を積極的に実行した事案とはいささか趣きを異にするものであり、この点は被告会社に対する量刑において若干斟酌すべきである。他方、被告人両名において本件のような大がかりな脱税をするに至った経緯等をみると、被告会社においてはイタリアのノルデイカ社から輸入するスキー靴の販売が主たる業務であり全体の約七五パーセントを占めているが、昭和四〇年代から我国におけるスキー靴の輸入量が増加し国内の生産者を圧迫するようになり、国内業者の主力である同和関係の業者等から輸入規制を求めて行政機関へ陳情がなされ、そのため昭和四九年には関税の高率な引上げ措置がとられ、さらに昭和五二年には行政官庁の指導により輸入数量の自主規制が実施され、被告会社においても輸入量を大幅に減らさざるを得なくなったため、会社の存続にも影響しかねない重大な事態に立ち至ったが、吉田社長ら被告会社の関係者には適切な解決方法もなくその対策に苦慮していたところ、被告人松村はこれが打開策としては結局金銭で解決するほかないと考えたものの、右のような金銭支出は吉田の承諾を得られないと思われたところからその資金を裏資金から捻出する必要を生じ、被告人高橋らに協力を求め、前記売上の除外や仕入の架空計上等の方法により多額に上る脱税を敢行するに至ったものであり、実際に、被告会社から同和関係団体に昭和五二年一二月ころから同五七年三月ころまでの間に合計二億四〇〇〇万円にも上る巨額の裏資金が交付されていることを考えると、右のような事情が本件犯行の主要な契機になったことは明らかであり、被告人両名が最高責任者である吉田に十分相談もせず、脱税により蓄積した裏資金で問題を処理しようとした点は責められるべきではあるが、当時被告人両名が会社の存廃にかかわる重大問題と感じ、窮地に追い込まれた気持になっていたことは十分推測できるのであって、被告人両名が同和対策には世人の想像を超えた困難な側面があり、当時他にとるべき方途が見出せなかった旨述べていることも単なる弁解ではないと認められるから、動機やほ脱所得の使途などの情状において斟酌すべき余地が存するものと認められる。

以上のほか、本件ほ脱率が比較的低いこと、被告人ら本件関係者は本件発覚後卒直にその非を認めており、公判廷においても犯罪事実をすべて認め、再び犯行に及ばないことを誓約しており、他方、被告会社は、被告人両名を従来の担当部署から外すとともに被告会社の組織を一新し、取引銀行から経理部長を派遣してもらい、新たな監査役をむかえるなど経理態勢にも改善の跡がみられ、再犯のおそれもないものと認められること、被告会社において本件二事業年度を含む三事業年度分について修正申告をしたうえ、本税、地方税等について納付済であり、重加算税についても確定次第納付する旨確約しており、被告人らが裏資金から受け取っていた賞与等についてもすべて被告会社に返還することを約し、その一部がすでに返還されていること、被告人両名は本件で降格及び減給処分を受けるなどすでに相応の社会的制裁をうけていると認められること、被告人らには前科・前歴が全くないこと等被告人らに有利な事情が認められるので、これらの情状をも総合考慮し、主文のとおり量刑した(求刑、被告会社罰金三五〇〇万円、被告人両名各懲役一年六月)。

よって主文のとおり判決する。

出席検察官 神宮寿雄

弁護人 浦田乾道(主任)・川島鈴子

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 羽渕清司 裁判官 園部秀穂)

別紙(一) 修正損益計算書

ダイワスポーツ株式会社

自 昭和53年5月1日

至 昭和54年4月30日

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(二) 修正損益計算書

ダイワスポーツ株式会社

自 昭和55年5月1日

至 昭和56年4月30日

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(三) 税額計算書

ダイワスポーツ株式会社

〈省略〉

〈省略〉

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